野性時代第105号で発表された〈古典部〉シリーズの短編作品。今回は伊原摩耶花が語り部を務め、中学時代のとある事件を背景に奉太郎の「過去」と「現在」が描かれた一作となっています。

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アニメ『氷菓』の原作〈古典部〉シリーズの短編作品
奉太郎と摩耶花の過去が描かれる。

『鏡には映らない』は、TVアニメ「氷菓」の原作小説〈古典部〉シリーズの短編小説です。野性時代第105号に掲載され、今秋発売予定の〈古典部〉シリーズ最新刊にも収録予定となっています。

小説 野性時代 第105号  KADOKAWA文芸MOOK  62332‐08 (KADOKAWA文芸MOOK 107)

折木が、中学の卒業制作で手を抜いた理由は何なのか。わたし、伊原摩耶花が、その謎を解き明かすべく、過去を紐解いていくと――。<古典部>シリーズ最新作!

出典 角川書店公式HPより抜粋

奉太郎以外の人物から語られる物語。
摩耶花の目に映る奉太郎の「過去」と「現在」とは

あいつはやるべきことをやらなかったことはない。たぶん。
古典部で、まあ何となく折木のやることも目に入ってきた一年間を思い出し、改めて考える。
折木は、三年生全員がかかわる卒業制作であれほど手を抜く、芯から腐った怠け者だろうか?

出典 野性時代No.108 P59より抜粋

今回は奉太郎と犬猿の仲である伊原真耶花が語り部。
前半で語られる卒業制作にまつわる事件の顛末。摩耶花の一人称になっていることにより、これまで描かれることのなかった
「他者から見る奉太郎」がとても新鮮に感じました。一方で摩耶花が奉太郎を毛嫌いしていた大きな理由も判明し、短編とは言いながらもシリーズ全体にかかわる情報の多い一編になっていたのでは。

中学の同級生と再会したことで思い出される「過去の奉太郎」と、摩耶花が古典部で見てきた奉太郎の齟齬……そんな中で、今も昔も変わらずに掲げられる「やらなくてもいいことはやらない。やるべきことなら手短に」という彼の省エネ主義にフォーカスが当てられ、物語は進んでいきます。

摩耶花から見たえると奉太郎の関係。
そして事件の真相は——?

ちーちゃんに笑顔が戻って来たのはいいことだ。二年生になってから、ちょっといろいろあったから、なおさらそう思う。
……さすがにちーちゃんの前で、折木の「彼女」の話は出せない。

出典 野性時代No.108 P74より抜粋

調査を進めていくうちに、奉太郎の中学時代の彼女と噂される人物が浮上。ここで摩耶花がえるに気を使う描写が為されたことからも、奉太郎とえるが互いに惹かれあっている様は古典部共通の認識になっているようですね。

隠された文章に気づいたとき、わたしは折木が事情を隠した理由もわかった気がした。こいつの行為は、鳥羽さんを救った。折木はそのことが恥ずかしいのだ。普段は省エネなんてうそぶいている自分が、気まぐれと手抜きという手段によってであれ女の子を助けたことは、人に知られたくないと思っている。
ばかだ。

出典 野性時代No.108 P96より抜粋

奉太郎の「彼女」から聞いたヒントから物語の真相にたどり着いた摩耶花。事件の裏を返してみれば、卒業制作をデザインした人物がそれを利用して「彼女」を貶めようとしていたのを阻止したというものでした。
鷹栖亜美を断罪するレリーフはいまだ中学校に残り、鳥羽麻美は心を閉ざしたまま——この丸く収まらない、澱が残るような感じはまさに〈古典部〉シリーズと言ったところでしょうか。

鳥羽麻美こそ救ったとはいえ、やり返す形になったこの解決策は結果として奉太郎を孤立させ、また因果応報とはいえ鷹栖亜美を傷つけるものとなりました。
言っても詮ないことではありますが、「ふたりの距離の概算」そして「いまさら翼といわれても」を経て、人を「見」て能動的に動けるようになりつつある今の奉太郎なら——また違った解決策を見出していたかもしれませんね。

総評

ヒロイン・伊原摩耶花を語り部に、奉太郎の中学時代が明らかに

「クドリャフカの順番」以来となる、摩耶花を語り部にした一編。本編のその後の関係に関わる描写がちらほら見られ、短編小説ながら読みごたえのある一編になっていたように思います。
なお、本作が掲載されている野性時代はプレミアがついており入手困難な状態。興味がある方は図書館などで探すか、今秋発売予定の新刊を待ったほうが無難です。

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