6月。一人夕食の準備をしていた奉太郎は里志から夜の散歩に誘われる。突然の呼び出しのわけとは——?が文芸カドカワでは初の掲載となる、〈古典部〉シリーズ連続新作短編第一弾

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この六月の夜のことを、俺はずっと憶えているだろう——・
〈古典部〉シリーズ最新作!

文芸カドカワ 2016年9月号<文芸カドカワ>

前作に比べるとミステリ寄りの内容
謎解きと並行して奉太郎と里志の関係にも焦点が当てられる

「というわけで、お手上げなんだ。不正票を箱に入れる方法もなくはないけど、それが事実だと仮定すると、選管内に闇の組織の存在を認めないといけなくなる。闇の組織なんてないと仮定すると、どこでどうやって票を足したのか見当も付かない。タイムリミットは明日の朝だけど、根まわしを考えると今夜中にハウダニットの目鼻をつけたい。にっちもさっちも行かなくなって、思わずホータローに電話したってわけさ」

出典 文芸カドカワ9月号「箱の中の欠落」より抜粋

劇中時間は6月。前作『いまさら翼といわれても』より前のストーリーになります。『概算』後の作品はキャラクターに寄った短編が続いていましたが、今回は前3編に比べると謎解き要素の強い作品になっていたように思います。
『心あたりのあるものは』を彷彿とさせる会話劇になっていて、神山高校の生徒会長選挙で行われた不正の真相を探るというエピソードに。『心あたりの〜』がホワイダニットだったのに対し、今回はハウダニット。犯人を捜すのではなく、“どのようにして”犯行が行われたのかに推理の焦点が当てられます。

「で、何を隠してるんだ」
「隠すだって、何の話かな」
里志の話には、不審な票が増えていたという問題を別にしても、おかしな点が二つあった。一つはいま俺が指摘した、この問題をなぜ俺に相談したのかという点だが、もう一つの疑問の方がより根本的だ。
〈中略〉
「お前自身の、解きたい理由ってやつを隠してるだろう、って言っているんだ」
里志は小さく苦笑した。
「ホータローには、かなわないなあ」

出典 文芸カドカワ9月号「箱の中の欠落」より抜粋

一方で謎解き一辺倒のエピソードかというとそうではなく、シリーズ開始時から奉太郎の「友人」ポジションだった里志との関係がどのようなものなのかが改めて描写。
しっかりと線を引いてわきまえた付き合い方はいかにも彼ららしいですが、ただ学生らしくはないかも……。

「お前は……相変わらずだな。影のヒーローをやりたがる」
苦い笑みが帰ってきた。
〈中略〉
「前にお前と夜の散歩をした時も、似たような話じゃなかったか」
「ああ……あれは、中学三年だっけ。なつかしいね」

出典 文芸カドカワ9月号「箱の中の欠落」より抜粋

「千反田さんに立候補の話があったらしいって、知ってた?」
俺の箸が一瞬止まって、また動き出す。
「……初耳だな」

出典 文芸カドカワ9月号「箱の中の欠落」より抜粋

また今回は過去の短編を連想させる描写もチラホラ。のちの展開をしっているだけに、えるの跡継ぎになるための行動が胸に痛い……。中学三年のときの「夜の散歩」はおそらく『鏡には映らない』の一件ですね。里志が影のヒーロー気質とは言い得て妙ですが、それは奉太郎にも当てはまるような気がします。

しかしなんだか嫌な気分だ。時間は進むということぐらいとうにわかっていたはずなのに、「いや、そのことの意味を、お前は本当にはわかっていないんじゃないのか」と言われたような。
「箱の中ばかりを見過ぎた。……なにか、欠けていたな」

出典 文芸カドカワ9月号「箱の中の欠落」より抜粋

時間は進んでいる。この当たり前の事実が奉太郎を真相へと導きました。今回は古典部絡みではない、言ってみれば、奉太郎にとっては何のことない事件。……しかし、冒頭で奉太郎はこの一件を「ずっと憶えている」と言っています。11月発売の新刊で、「遠まわりする雛」のような書き下ろしが収録されるのであれば、そこで理由が明かされるのかもしれませんね。

総評

前作に比べて謎解き要素の強い一作

本作は近年発表された〈古典部〉短編と比較するとミステリ寄りの内容になっていた印象。読み味がシリーズ初期の短編に近いので、「遠まわりする雛」の短編が好きな人はより楽しめる1作になっていたと思います。

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