漫画研究会が分裂の危機に。二派に分かれた部の対立に巻き込まれた摩耶花の前に現れた意外な人物とは——?
摩耶花が語り部を務める〈古典部〉シリーズ連続新作短編第二弾

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漫研が分裂の危機に。二派の対立は摩耶花を巻き込んで加速していく——
〈古典部〉シリーズ最新読み切り!

文芸カドカワ 2016年10月号<文芸カドカワ>

ミステリではなくジュブナイル寄りに描かれたエピソード
摩耶花が漫研を辞めた経緯が綴られる

「本って不思議ね、だれが書いてもいいなんて」
どういう文脈での発言だったのかはわからない。〈中略〉しかし、その一言は、わたしにとんでもないことを気づかせた。
……そうか。わたしだって、別に漫画を描いてもいいんだ。

出典 文芸カドカワ10月号「わたしたちの伝説の一冊」より抜粋

摩耶花が漫画を書くきっかけとなった回想から物語はスタート。彼女が学生のうちから投稿を続けていたことに少し感動しました。もちろん摩耶花がいわゆる「ワナビ」タイプだとは思っていませんでしたが、それでも一冊の漫画を描ききり、賞に投稿するというのはそれだけで多大な努力が必要なわけで。自他共に厳しくある彼女を再確認できて嬉しかったですね。

「来たね、伊原」
わたしは棒立ちになり、物も言えなかった。
鬼が出ても蛇が出てもやっつけるつもりでいたけれど、このひとが出てくるとは思わなかった。神山高校三年生、元漫画研究会部員、河内亜也子。

出典 文芸カドカワ10月号「わたしたちの伝説の一冊」より抜粋

漫研でのいざこざに巻き込まれ、アイディアノートを盗まれた摩耶花。黒幕はなんと引退したはずの河内先輩でした。ストーリー的にどこかで絡んでくるだろうとは思っていましたが、まさか本丸で出てくるとは……。

「いまさらだよ、自作を描いている時点であんたは変人だし、もう充分に蔑まれてる。」

出典 文芸カドカワ10月号「わたしたちの伝説の一冊」より抜粋

今回のストーリーで一番好きな、というか胸に来たセリフ。筆者もどちらかといえば創作畑の人間であり、摩耶花ほどではなくてもなにかしら作っていた人間なので、これはそうだよなぁ、と改めて目から鱗でした。文系のサークルは内部分裂が多いイメージがあるのですが(偏見)、大体の原因はこのセリフに収束するのではないかなぁ、なんて思いますね。

本作は、摩耶花がいかにして漫研を辞めるに至ったのかを描いたエピソードでした。
漫研ではなく河内を選ぶ、というラストになりましたが、実は、筆者的にこの辺りの流れは正直あまり好ましく思えませんでした。

もちろん漫研を辞めるのはマストです。どちらのためにもならないという河内のセリフは正しい。

ではなぜ摩耶花が河内と組まなければならないのか、そこがわからない。河内の語りにより順立てて説明されていますが、組むという結論ありきで肉付けしていった理由にしか思えませんでした。なぜなら摩耶花は、前述のようにひとりで作品を仕上げ投稿をし、下位の賞ながら受賞できるくらいの実力は持っているのだから。
きっと、河内も怖いのでしょう。自身の才能と向き合うのは。だから似た境遇にいた摩耶花を「頼った」。
結局のところ、河内も同人誌作りに巻き込もうとした浅沼と変わらない。摩耶花に必要なのは、創作の孤独に耐えることであって、描く場を変えることではない——それは、プロを目指すのであれば河内も同様で、「才能に仕える」とはそういうことではないかと、筆者は思います。

「伊原、あたしたちで伝説を作るよ。神山高校に残る伝説の一冊を。」

出典 文芸カドカワ10月号「わたしたちの伝説の一冊」より抜粋

いつか書かれるであろう、次の神高祭。彼女らの今回の決断は、そこでどのように実を結ぶのでしょうね。

総評

前号とは対照的に、ジュブナイル要素の強い一作に

「ふたりの距離の概算」で少しだけ語られた摩耶花の漫研退部の経緯が語られるエピソード。おそらくこれまでのどの短編よりもミステリ要素は薄く、ジュブナイル作品と言われた方がしっくりくる作りになっています。
個人的には劇中事件の重要なヒントとなった、奉太郎の「走れメロス」論がすごく面白かったので、ぜひ読んでみてほしいですね。

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